子どもに「片付けなさい」と言っても、なかなか片付けてくれない。
そんな経験はないでしょうか。
でも、自分が片付けている姿を見せたときだけ、なぜか真似して片付け始めた、ということもあるはずです。
子どもは「言われたこと」より「見たこと」を学ぶ
これは、心理学でいう「観察学習(モデリング)」という現象で説明できます。
心理学者アルバート・バンデューラは、人が新しい行動を身につけるとき、直接教えられたり褒められたりしなくても、他人の行動を見ているだけで学習できることを示しました。
有名な実験では、大人がとった行動を見た子どもたちが、同じような行動を真似する様子が観察されています。
この実験自体には、その後の研究でさまざまな議論もありますが、「観察するだけで学習が起きる」という理論の骨格は、教育・子育て・組織学習など幅広い分野で今も使われています。
つまり子どもは、親が「言葉で教えたこと」よりも、親が「無意識にやっていること」の方を、よく見て学んでいるということです。
このような模倣は、かなり早い時期から始まると考えられています。
言葉を話す前の赤ちゃんが、大人の表情や仕草を真似ることも、その一つの現れです。
成長するにつれて、真似の対象は表情や仕草から、言葉遣いや態度、物事への向き合い方へと広がっていきます。
つまり、子どもが大きくなっても「見て学ぶ」という仕組みそのものはなくならず、むしろ真似する範囲が広がっていくということです。
自分も、これで気づかされた
自分の子育てでも、これを実感する場面が何度もありました。
虫を見つけたとき、自分が怖がらずに手を伸ばせば、子どもも同じように手を伸ばします。
逆に「うわっ」と避ければ、その仕草までそのまま真似をします。
「流石に」といった自分の口癖を、子どもがいつの間にかそのまま口にしていたこともありました。
猫背でスマホを見ていれば、子どもも同じ姿勢で座っている。
言葉も、態度も、姿勢まで。
こちらが意識していない、良いところも悪いところも、そのまま映し取っているのだと気づかされました。
子どもに何かを教えているつもりがなくても、常に見られている。
そう考えると、背筋が伸びる思いがしました。
「言って聞かせる」より効く、3つの工夫
もし、お子さんに変えてほしい行動があるなら、言葉で指示する前に、次の3つを試してみてください。
① まず自分がやってみせる
「本を読みなさい」と言う前に、自分が本を手に取る。
「挨拶しなさい」と言う前に、自分が先に挨拶する。
言葉で指示するより先に、見せる場面を一つ作ってしまうのが近道です。
② 直したい癖ほど、自分ごととして見直す
子どもの言葉遣いや姿勢が気になったら、まず自分の同じ部分を振り返ってみます。
子どもだけを直そうとするより、自分の癖を一緒に見直した方が、結果的に早く変わることがよくあります。
③ 反応の仕方も見られていると意識する
何かに驚いたり嫌がったりする態度も、そのまま真似されます。
失敗したときにどう振る舞うか、うまくいかないときにどんな言葉を口にするか。
そうした「とっさの反応」まで見られていると意識しておくだけで、日々の振る舞いが少し変わることがあります。
指示や注意を重ねるより、見せる行動を一つ変える方が、ずっと伝わりやすいはずです。
大きくなっても、仕組みは同じ
この「見て学ぶ」という仕組みは、子どもが小さいうちだけの話ではありません。
小学生になれば、勉強への向き合い方や、スマートフォンとの付き合い方も、親の様子を見て学んでいきます。
「勉強しなさい」と言いながら自分はテレビばかり見ている、「スマホばかり見るな」と言いながら自分はスマホを手放さない。
そんな場面ほど、言葉と行動のちぐはぐさが伝わってしまいます。
年齢が上がるほど、言葉で説明すれば理解できる場面は増えますが、それでも行動で示すことの影響力が消えるわけではありません。
完璧を目指さなくていい
とはいえ、常に理想的な行動を見せ続けられる人はいません。
観察学習は、特別に意識した瞬間だけでなく、日常のあらゆる場面で起きています。
だからこそ、気負いすぎず、「直したい行動を一つだけ選んで、自分から実践してみる」くらいの気軽さで十分だと思います。
完璧な手本を目指すより、変えたいことを一つずつ自分から実践していく方が、結果として長く続けられます。
子どもは、こちらが思っている以上に、日々の何気ない姿を見ています。
その事実を少し意識に置いておくだけで、子育ての中での自分の振る舞い方は、自然と変わっていくはずです。


コメント